「おひさしぶりです、おばあさま」
「摩利…」
孫の姿を見るなり、メーリンク子爵夫人は長椅子から立ち上がって抱きかかえんばかりに頬を寄せた。
「本当にどれだけぶりかしら。また背が伸びて。ああ、でも、目元も口元もますますマレーネに似てくるわ」
去年会った時と同じ言葉を口にして、愛娘の忘れ形見の顔を覗き込んだ。感激に胸が詰まる。摩利に続いて客間の扉を開けた思音に、視線を向ける余裕もない。
「これはメーリンク子爵夫人、お久しぶりです。お元気そうですね」
ボーフォール公の声にメーリンク夫人があっと振り向いた。彼女は孫との再会に夢中になって、公が入ってきたことに気付かなかった。
「ま、公爵。どうして…ここへ」
ボーフォール公爵には、以前、私が仮病をつかってP侯爵の茶話会を欠席したことを知られているのだわ ――。そう思うせいか、メーリンク夫人は彼の前ではどうしても緊張する。
「たまたま所用でビジネスパートナーの所へ立ち寄ったら、子爵夫人がお見えになったと聞きました。それで、ぜひご挨拶したいと」
公が完璧に優雅な所作で手に接吻して、夫人が困惑する名前を口にする。
「P侯爵も変わりなく元気です。どうもあの方は年々お若くなるようです」
「あ、そ、それは、なによりです。主人が聞いたらとても喜びますわ。どうか、侯爵によろしくお伝えくださいまし」
何食わぬ顔で「確かにお伝えします」と言う公に、メーリンク夫人は息を整えてなんとか笑顔を取繕った。そのはずみでやっと自分に視線を向けた夫人に、思音が挨拶する。
「お義母さん、よくおいで下さいまし…」
夫人は最後まで聞こうとせず、用意してきた言葉を権高く思音に突きつけた。
「ええ、今日、私は摩利を迎えに参りましたの」
彼女は、摩利がベルリンに留学したいと希望しているのに思音が強硬に反対していると決めてかかっている。
―― 何か月待っても摩利から返答がないのは、あの父親が邪魔立てしているからに違いないわ。アグネスやウルリーケがなんと言おうと、自分の目と耳で確かめなければ……。
アグネスの父 ―― つまり彼女の義理の息子だが ―― がパリに出向くのは千載一遇の好機だった。かたくなな夫・メーリンク子爵の不機嫌をものともせず、神経痛をおして、半ば無理やり同行した。
「大事な一人娘の忘れ形見の教育を、こんな無責任な父親に任せておけません。私たちがマレーネにしてやれなかったことを、せめて摩利にと思いましてね」
ボーフォール公の存在に緊張しながらも、彼女も腹に据えかねた思いをぶちまける。
「摩利、おばあさまと一緒にベルリンへ行くのですよ」
―― おれが返事を一日延ばしにして半年近くなる。おばあさまががしびれを切らすのも当然だ。そのせいで、とうさまが悪く思われてしまった。
「誰に何の気兼ねも要りません」
強い口調で重ねて摩利に同意を促した。
「そうでしょう? あなたのおかあさまの家に行くのですもの。さあ……、」
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