今まで考えたこともなかった。
―― それは、あいつが新吾でおれが摩利だからだ。
ほかに答えようがない。
―― それだけで?
冷たくせせら笑う自分に、より尊大に問い返す。
―― それ以外なにが必要だ?
自分で自分に尊大に振舞って、なんの慰めになるだろう。
―― 新吾ほど律儀に定期便を出していないのに、おれは勝手だ。
……、新吾はおれの手紙が届かなければ、いらいらするだろうか?
それとも、「きっと摩利は忙しいのだろう」とひとりで納得しているだろうか?
そう、おれが返事を書くから新吾は手紙を書くわけじゃない。
新吾はおれに手紙を書きたいから書いている。……、おれは?
4月に届いた新吾の定期便を読み直した。
新吾は、再来年は摩利と一緒に持堂院に進学するのを当たり前だと思っている。
言葉としては一切触れていないが、その大前提は行間に溢れている。
―― 新吾、おまえにとっては、敢えて書き綴るまでもない自明のことなんだよな。
同封された手書きの入試問題を広げた。
―― おそらく今の時点でも半分はできなければ、再来年の合格はおぼつかないよなぁ…。
新吾は着実に勉強しているだろう。…帰国したところで、おれだけが不合格だったら?
メイドが扉を叩き、アグネスから電話が入ったと知らせた。
「摩利? 急な話なのだけれど…。ごめんなさい、あさってのレッスン、都合が悪くなってしまったのよ」
「日時の変更ですか? かまいませんよ、ぼくは」
「それがね、申し訳ないのだけれど…」
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