23, 2度目の春 |
重苦しい沈黙のあとにウルリーケが言った。 |
1月、逮捕されたインドの過激派から情報提供者として自分の名前があがった直後、スペンサー伯爵は愕然とした。 |
思音はロンドン滞在中に耳に入ったことを手短に語ると、去年の夏、“インドの彼”に会うために別荘からひとりでベルリンに飛んで帰ったウルリーケの姿を思い出して言葉を切った。 |
ウルリーケは声を立てずに姉の胸で泣きながら、ぽつりぽつりと語り始めた。 |
他人を無実の罪に陥れ自分は安穏と利を貪(むさぼ)る ――
国を問わず時代を問わず珍しい事件ではないと、14歳の摩利は割り切れなかった。
だからといって自分にはウルリーケに手を差し伸べる術もない。
鬱々した気分でアグネスを見送って自室に戻ろうとしたら、背後から思音が声をかけた。 |
2月から誰にも相談できず、泣き顔さえ見せられなかったウルリーケは、泣くだけ泣くと落ち着きを取り戻した。
今でも、「一生涯、彼を忘れないわ」と繰言(くりごと)をいうが、現実は受け入れなければと決心しているようだ。 (2002.2.18 up)
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