19, 銀色の幽霊 |
4日前、アグネスとウルリーケは、カウアー男爵とシュテファンを見送った。
朝からよく晴れて風もなく穏やかな日だった。
短いパリでの滞在をサロンコンサートや縁故姻戚関係の社交で過ごして、父と子はベルリンへの帰途についた。 |
昼過ぎ、陽気に誘われてウルリーケはショールもはおらず庭に出た。 |
―― アグネスは今の独り言を聞いたかしら? |
玄関の車寄せの正面を少しはずして、アルミニウムボディのロールスロイスが止まっていた。
ボーフォール公が摩利を助手席から降ろしている。
娘たちが目を見張った。 |
20世紀初頭、自動車の揺籃期が終わろうとしていた。
自動車レースには、蒸気自動車、ガソリン自動車、そして電気自動車が混在する時代だったが、時を追ってガソリンエンジンが他の動力より圧倒的に優れていることが証明されていった。 |
アグネスが車のぐるりを見て廻った。 |
全くの余談になるが、渡欧直後の夜会の駐車場で、新吾は“イスパノスイザ”を見かけて喜んでいたが、この高級自動車メーカーも20世紀初頭に誕生した。 |
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メイドの視線を背中に感じながら、摩利はウルリーケに尋ねた。 (2001.11.26 up)
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