17, カウアー男爵父子 |
4月のサロンコンサート当夜――。 |
演奏が始まるまでの待ち時間に、あるいは演奏の合間に、令嬢たちがひっきりなしに口実を見つけては摩利に話しかけ機嫌を取り結ぼうとする。 |
数日前、アグネスは思音からの電話を受けた。 |
盛大な拍手でアンコールを繰り返してサロンコンサートが終わった。
盛況のうちにも次のない寂しい余韻の中を客が三々五々に引き上げる。 |
思音はメーリンク子爵への気兼ねもあって、一族の顔合わせの場には出席を控えるつもりだった。
けれども、「思音はウルリーケの命の恩人ですもの。
まだ、ウルリーケは一応はカウアー男爵のご子息の婚約者なのだから、ぜひ、残ってください。ええ、男爵にはよくご説明しておきますから」というアグネスの言を容れて、摩利を伴ってカウアー男爵に挨拶をした。 |
大人たちが身内の社交会話を始めた。
それは通常の社交よりかえってある種気を使うものだが、今夜は名演奏の数々を聞いた後なので話題の箸休めに事欠かず、気楽に場が和む。 |
「おや、おひとりで。フレッシュ先生はお見えにならないのですか? 」 |
―― 好きなヴァイオリンの道に進める好機をみすみす見逃すなんて…。
それも職業演奏家ではなくて音楽院での教授だ。
いくらメーリンクのおじいさまが厳しい人でも、話してみるだけの価値はあると思うけれど…。 |
(2001.10.22up)
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