16, ロンドンの紅茶 |
厳冬のベルリンでは一夜の宿が確保できなければ確実に凍死する。
3日たってもウルリーケの行方は杳(よう)として知れず、家族は身元不明死体の噂にも聞き耳を立てなければならなくなっている。 |
アグネスがウルリーケの失踪を知ったのは、さらに2日後だった。 |
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「これ以上、無理はさせられまい。ここからだとアミアンあたりで降りるか…」 |
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アグネスが食後の紅茶を一口含んで、おやという顔をして物問いたげに思音の顔を見た。 |
「ウルリーケは、フランもポンドも手持ちがほとんどなかったんですよ。
だから、思音がいて下さらなかったら、医者にもかかれず手遅れになっていたかも・・・。
いえ、私のところに来る旅費さえままならず、冗談ではなく行き倒れになってしまったかもしれません」 (2001.8.23 up)
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