15, 雨の歌 |
ベルリンは風もなくスケート日和だった。
ウルリーケは、汗ばむほどに友だちとスケートに興じ、他愛ないやりとりでころころと笑い転げた。
逃れられない現実として迫ってくる結婚や、2度と会えないかも知れないインドの彼への憂いをすっかり忘れて、声をあげて笑うのは久しぶりだった。 |
事のついでにつむじ風娘はロンドン行きの決意まで固めて、祖母から本当の所を聞き出そうと勢い込んで玄関に足を踏み入れた。 |
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アグネスのにこやかでソツがない回答に、ボーフォール公はいかにも詮索めいた愚問を発した自分に鼻白(はなじろ)んだ。半ば無意識のうちに自分への不快感を紛らわせようと、葉巻に火をつける。 |
「思音は来週半ばには帰国できるようです。
昨日、秘書から連絡が入りましてね。
予定より10日も遅れているし、こちらも館の片付けが始まって落ち着かないようであれば、摩利には私の屋敷でもオフィスでも移ってもらってかまわないのだが」 |
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閉められた扉の向こうで彼女の足音が遠ざかるのを確かめると、ボーフォール公は摩利に口を開く間を与えずに、けれども、ゆっくり冷たい口調で問い正す。 |
帰りの馬車の中でボーフォール公は雨の歌を口ずさんだ。 (2001.8.2 up)
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