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 2003年1月3日 その2


ロベスピエール
歩く清廉潔白、ロベスピエール
 2003年2月号(2002年12月28日発売)は、フランス革命の概略ということで、ずいぶんたくさんの“おじさん”の顔が並びましたが。

 ええ、肖像画が残っている人も残ってない人も、勝手にイメージして議員のおじさんたちを描けたのは楽しかったですよ〜。“おじさん”といっても年齢的には青年たちなんだけど(笑)。
 「議員たちも少女漫画のきれいな顔に描いて」というリクエストもありますが、『杖と翼』では…、もう遅いかも……。すみません! でも、今号の議員たちの台詞はみんなそれぞれの語録から一言ずつでも拾ったものです。これもご供養ね(笑)。

 アントワネットは(池田)理代子さん(の『ベルサイユのばら』のアントワネット)の似顔絵を描こうかという考えも頭をかすめましたが(笑)、ペン画がたくさん残っているからそれらをアレンジして使っています。後世の人が描いたにしてもそれなりに資料としてアントワネットのイメージを伝えているかと思うし、ペン画がとても上手なアシスタントさんがいるので。
 理代子さんは友人だから似顔絵を描いても、きっと笑って許してくれると思うけど、やっぱり失礼ですし。

 ペン画というと、今回の“嘆きの国王一家”などですね?

木原版?嘆きの国王一家より
木原版? 嘆きの国王一家(部分)
 ええ、人物のポーズなどだいぶ変えていますが。
 “ベルサイユへの行進”や“ジュードポームの誓い”なども、良く見ると結構違うの。いえ、そのまんまだとちょっと私の気分が良くないので(笑)。


 昨年(2002年)の夏ごろから先生の絵が少し変わってきた感じがしますが、デッサンを変えたりなさったのですか?

 いいえ、単に元気になっただけです。
 3年間、ずっとアレルギーと言われて通院してたのに、目が疲れるばかりでちっとも良くならないので、別の眼科で再検査したら強度のドライアイだったの!!
 それから目薬を替えて、せっせとブルーベリーを摂って、眼鏡も作って、やれやれ(汗)。
 ずいぶん楽になったのでペンを持つ手も軽くなったのです。通院中は絵を描くのもちょっと苦労しましたから。

 若い頃は勢いで描けましたが、そのようなわけでこの連載は、やっと近頃ですね、描いていて「楽しいなあ」と思えるようになったのは。ただし1回分の中で、自分の思いどおりの顔が描けるのは昔も今も…1コマくらいです。無しの時も多いし。


 絵の変化としては、とくに男性キャラクターのあごと口元の感じが変わったような気がします。

 ドライアイ緩和とともに少しずつ描線が元気になってきたからでしょうね。アデルたちの目も強くなったでしょ。まつ毛も増えたし。
 また、描き続けていれば絵は変わるのが当然ですし…、元には戻りません。


 一番お元気だったのはいつ頃ですか?

 元気というか、描線として私のベストは『鵺』のころ…じゃないかなあ。『摩利と新吾』『アンジェリク』のころは若さとエネルギー全開の勢いがありましたね。こちらは描線も含めてですけど。
 う〜〜〜ん、それにしても、なんであんな目の状態がつらい時期に長期連載なんて始めたのかなあ。編集長にお断りするつもりが、気がつくと「はい」って言っていたのよねぇ。

 『無言歌』の空也(そらや)ではありませんが、「運命だ」でしょうか(笑)。

 あはは、そうね。元気になった今、連載を始めるとしてフランス革命を描こうと考えるとは限らないものね。

 “その時期だから描けるもの”って常にあると思いますし。

 うん…、『摩利と新吾』のころにフランス革命を描いたら、重くなっていたぞお。主人公たちが「この人民の塗炭の苦しみをなんとかせねば!」って、頬に滂沱の涙を流してこぶし振るって(笑)。
 ……、できないのよねえ、そういうノリ、今の私には。
 元気になったし、楽しくなったしでいよいよ毎月50ページで突っ走りたいけど、今度は“年齢の壁”が立ちはだかるのよ〜。体力低下はね、どうしようもないです。今はひと月30ページがやっとですしねえ〜。

 フラワーズ2003年2月号(2002年12月28日発売)の欄外の近況通信に腰痛のことをお書きになっていましたが、まだお悪いのですか?

『杖と翼』3巻
 まあまあです。良かったり、良くなかったり、長いつきあいになりそうです。
 どのお医者さんにも「職業病だから仕事をやめればよくなる」って言われましたけど、そう言われてもね……。


 ファンとしては、お大事にしていただきたいけれど、作品は描いていただきたいし……。
 『摩利と新吾』といえば、アデルもリュウも新吾タイプのキャラですね。ふたりともお日さまで。


 うん、主人公たちはやっぱりくじけず真っ直ぐに生きてほしいので。でも、新吾とは違いますねえ……。

 1月25日には単行本の3巻も出ますし、フラワーズの連載の進展とあわせて楽しみにしています。
 昨年11月に刊行された集英社YOUコミックス『牡丹は忘れない』には、大正浪漫探偵譚シリーズのほかに『瞬きの劇場』が収録されていますね。

牡丹は忘れない
牡丹は忘れない
 ええ、単行本未収録だったから。

 掲載された雑誌の発行部数が少なかったのか、初出時に「雑誌が見つからない」という方もいらっしゃって、今回の収録でやっと読めるという方もありました。

 そうでしたか。私もちょっと気になっていたので良かった。

 そして、結衣ちゃんと佳央里さまの『大正浪漫探偵譚シリーズ』ですが、かれこれ十年続いて息の長いシリーズですね。

 わあ、もう、そんなになるのね〜。

 セリエミステリー1993年1月号に第1作を発表なさっています。そちらで7作、集英社YOU系列に舞台を移してから11作になります。
 集英社文庫『四十七文字』のあとがきで先生は、
 「妖しくて雰囲気があって、でもちゃんと本格にこだわっていて、ちょっと楽しい。  欲ばってそんなミステリーになればいいなと思いつつ、灰色の脳細胞をさかさに搾って、このシリーズを起こしました。」
と、お書きになっています。


 初志貫徹!!
 ここ何年かは、年に1本が精一杯でね〜。
 結衣と佳央里は、古き良き時代の夫唱婦随なのね。で、強いお父さんがどんと家の真中にいて、その横にやさしいお母さんがいて、元気な子供たちがちゃんとしつけられていて。家族にとって家庭が巣箱だった時代の。

 日本の封建時代は、もちろんめちゃくちゃな面もありましたが、でも、しっかり芯の通ったところもありました。今の日本人がなくしてしまったものね。
 あの家で一番強いのは結衣なのよ。佳央里も近頃はだいぶしっかりしてきたけど、本当はさびしがりやのお坊ちゃまだし。
 本気でふたりがけんかしたら、勝つのは結衣よ。もし結衣を失ったら、佳央里さんは立ち直れないでしょうねぇ…。きっと。

 あと、このシリーズのもうひとつのポイントはロマンです。なにしろ“浪漫”と銘打っているシリーズだし。


 毎回、似合いの個性的なカップルが登場しますよね。

 生き返らせてくださいってリクエストされているキャラクターもいるのよ。「『火蜥蜴(サラマンダー)は眠る』のあのプッツン陶芸家、実は生き延びていたってお話はできませんか?」って(笑)。

 彼、紫雲寺一煌は美形で専門分野だけ天才であとはどうしようもないから、面白いです。
 女流詩人とよくバランスが取れていて、カップルとしての組み合わせとしても楽しいし。割れ鍋に閉じ蓋とでもいうか。


阿佐緒の婀娜な着こなし
 私のカップルはみんなそうよ(笑)。
 このシリーズはプッツンしていたり偏屈だったり、いろんな“変な人”をたくさん描けるから楽しいわね。考えるのは大変なんですけど。アシスタントさんたちも楽しみにしてくれてるようです。


 毎回、性格もルックスも一癖も二癖もありそうなキャラクターや、美形だけれどイワクがあるキャラクターが登場しますよね。
 大正時代だけにお着物なども興味深く拝見しています。先生ご自身がお着物をお召しになるのが好きだから、キャラクターによって着こなしもそれぞれで。
 『鏡の肖像』の阿佐緒(あさお)は、鎖骨が見えそうなほど大きく襟を開けて着ていたり。


 阿佐緒は浅草の歌姫だから婀娜(アダ)に着ているの。粋(イキ)じゃなくて婀娜なのよ。

 『光源氏事件』の公爵家の未亡人の外出着や、『牡丹は忘れない』の冴路の接客時の着物は比翼仕立て、『風に羽衣』の衣子の色留袖はすそにフキが入っています。結衣ちゃんの子供たちの着物は肩上げや腰上げしているし、衣服にもそれぞれの生活、ひいてはその時代の世相が見えます。
 そして、しっかりと“ダイイングメッセージ”とか“宝捜し”とか、ミステリーの定石をネタにしっかり仕込んで、欲ばりなロマンミステリーシリーズです。


 私もお気に入りのシリーズなので、もっと楽しく面白く、妖しく(?)なるように、マイペースでこれからも、のそのそ描いてゆきますわ。

公爵未亡人
(光源氏事件)
旅館の女将
(牡丹は忘れない)
華族のお姫様
(風に羽衣)

 去年の話になりますが、フランス取材旅行のお土産のTシャツプレゼント企画はいかがでしたか?

 ロワールのシャンボール城の王様と王妃様が並んだなかなかすてきな柄のTシャツで、現地に行かないと手に入らないものだったのよ。もう一種類はアゼー・ル・リドの森の動物の柄でした。
 抽選や発送はフラワーズ編集部にお任せしましたが、皆さんのメッセージは読みました。

 このメッセージに限らずファンレターはみんなうれしく読んでいます。でも、お返事が書けなくてね〜。本当にお手紙はとてもうれしいのよ〜。ちゃんと私に届いているか心配な方もいらっしゃるようですが、大丈夫です。届いているし、読んでいます。安心してください。

 それからお願いがあります。
 私あての感想批判その他ありましたら、私はネット活動はいたしませんので、お手数ですがお便りをください。お便り読むのは大好きです。
 ゆりあさんのこのサイトは基本的にファンの方たちがわいわい楽しむ場所であり、私あての伝言版ではありません。その点をご理解の上、どうぞよろしくお願いしますね。
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    小学館『フラワーズ編集部』 木原敏江先生

 2002年12月号(10月28日発売)のフラワーズ近況コーナーで、「私ごのみの、それは美しい能の女面を2面、手に入れました。秋の夜長にゆっくり考えて名前をつけます。」とお書きになっていましたが、もう名前はお決まりでしょうか?

 ふふふ、龍田(たつた)と衣通(そとおり)にしようかと思っています。あの世の美女とこの世の美女なの。あの世が龍田で、この世は衣通ね。

 龍田の名前が出たところで『読み人知らず』など『夢の碑シリーズ』の小品についてお話いただければ…。

 時間も遅くなりましたから今日はここまでにしましょう。

 はい、長時間ありがとうございました。

 龍田はまた次にね。

 よろしくお願いします。昨年はお仕事続きで一回しかインタビューいただけなかったのですが、今年は何回か機会をいただければとても嬉しいです。連載をお持ちでお忙しいとは思いますが、ぜひよろしくお願いします。
 今日はありがとうございました。お風邪、お大事になさってください。



文中の作品の単行本収録は以下のとおりです。 詳細は拙サイト書籍資料をご参照ください。
『鵺』(ぬえ) 小学館文庫 鵺 全3巻
小学館PFコミックス 夢の碑 9〜12
『アンジェリク』 秋田文庫『アンジェリク』 全3巻
『摩利と新吾』 白泉社文庫『摩利と新吾』全8巻
『無言歌』 秋田文庫『愛しき言つくしてよ 』全1巻
『火蜥蜴(サラマンダー)は眠る』 集英社文庫『見返り美人』全1巻
集英社YOUコミックス『鏡の肖像』
『鏡の肖像』 集英社YOUコミックス『鏡の肖像』
『光源氏事件』 集英社YOUコミックス『牡丹は忘れない』
『牡丹は忘れない』 集英社YOUコミックス『牡丹は忘れない』
『風に羽衣』 集英社YOUコミックス『鏡の肖像』
『読み人知らず』 小学館文庫『青頭巾』 全1巻
小学館PFコミックス 夢の碑 4
『大正浪漫探偵譚』
(たいしょうロマンミステリィ)
シリーズ
『四十七文字』 (集英社文庫)
『見返り美人』 (集英社文庫)

『うしろの守護天使』 (集英社ユーコミックス)
『鏡の肖像』 (集英社ユーコミックス)
『牡丹は忘れない』 (集英社ユーコミックス)

『四十七文字1』 (白泉社レディースコミック)
『四十七文字2』 (白泉社レディースコミック)
2003年1月3日電話にて
引用転載厳禁
(2003.1.30 up)

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2003年1月3日 その1

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