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 2001年11月27日 その1


 プチフラワー連載中の『杖と翼』が4ヶ月ぶりに再開して、「いよいよ物語が動きそう!」と言う感じですね。

 どんな物語でも状況の説明や舞台設定は不可欠ですが、隔月誌に描いているうえ、やむをえない事情でお休みが何回か入ってしまって、ここまで来るのに1年以上かかってしまいました。 週刊連載だとすぐなのですけれどね。
 これでパリでのキャラクターが揃ったし舞台も整いましたから、本当にやっと物語が始まります。


 パリでのキャラクターというと、パリ以外にはまだ…?

 ええ、例えばヴァンデーとか…。うふふ…。

 あ、謎めいた笑い…。
 一月号(2001年11月26日号)のプレゼント企画、直筆のカラー色紙なんてとても豪華です。 日付を見ると今号の原稿をお出しになった直後に描かれたものですね?

 そうです。ふつうの色紙のようにサインペンで描こうかとも考えましたが、それではあんまりですから、かるーく下絵を描いて色をつけたのですが、消しゴムをかけた時にちょっと毛羽立ってしまって。(笑)
 色紙にきちんと彩色するのはムズカシイんです。


 雑誌の印刷で見ても、桜色のアデル、空色のレオン、若草色のリュウとパステルカラーが綺麗です。 キャラのイメージカラーでしょうか?

 いえ、絵の具を受けつけない紙で、それでもなんとか綺麗に色を出そうと考えたらこんな配色になりました。
 けっこう苦労して(!!)描いたので、かわいがってくださる方にもらっていただけるとうれしいなあ…。 まちがっても、ネットーオークションにかけるようなフラチ者の手には渡りませんように!

 このプレゼント企画は、当初はフランスのお土産の予定と聞いていましたが。

 ええ、10月に予定していたフランス旅行を、米国での同時多発テロの影響で取りやめにしたので、その代わりのものということです。

 せっかく計画したご旅行だったと思いますが…。

 ノルマンディーはりんごの産地でもあるから、りんご酒がおいしいだろうと秋に行くのを楽しみにしていたのに残念です。
 でも、万一トラブルがあったら、一時的にせよ安否不明、音信不通になるだけでも日本に残っている家族のストレスになるでしょ?  結果的には無事に帰ってこられたとしても。 それで延期しました。
 私が天涯孤独の身なら、なにも気にせずに行っちゃいましたね、きっと。


 いえ、残された読者が困ります!
 『杖と翼』に戻りますが、近頃、アデルばかりでなく登場する女性のほとんどが肩からショールのようなスカーフのようなものをかけていますね。


 あの時代、特に1785年くらいから94〜5年頃ですが、パリを中心にした流行です。 アントワネットも宮廷生活後期には羽織っていたし、貴族の奥様から下町のおかみさんまで、誰も彼もあのスタイルでした。


 上流の婦人はうすーい絹に綺麗な刺繍をほどこした物を、ふわんふわんにふくらませて、ふんわりと胸元にたくし込むようにしました。 おかみさんたちは絹布なんて上等なものは手に入りませんから、他の素材でもっと厚手のものでした。 あと、おしゃれな人は首のところで高くなるような巻き方をしてみたり。
 それに、当時のドレスは、ショールというかスカーフというか、あれがなければバストトップが見えそうなほど襟ぐりが大きかったという事情もあるでしょうね。


 今月号のシャルロットも、このスカーフをちゃんと羽織っていました。そして、かわいい帽子をかぶって。 前回も今回もシャルロットの帽子を縁のフリルまで、先生は丁寧に描いていらっしゃいますね。

 このふち(つば)のない帽子はボンネットの一種で、残っているシャルロットの最後の肖像画はあの帽子をかぶって描かれています。 ボンネットは、あの時代ほとんどの女性がかぶっていました。
 マリー・アントワネットは、牢獄から処刑場に向かう時のスケッチなど何点か残っていて、物によっては美人に描かれていたり、老婆のようだったり様々ですが、やはり白いボンネットをかぶっていました。 そして、白い服、白い室内履きを身につけて。

 そうね、資料を見るかぎりでは、牢獄から処刑場に向かう時、最後に人目にさらされる時の身なりはきちんと出来たようです。 その点は、革命の最中でも人間性を失っていなかったと言うか……、まあ、これが真実かどうかは疑問符付きですが。
 もっとも、いざ断頭台にかけられるその場になればショールも帽子も取られてしまったし、処刑後は身ぐるみ全部を引き剥がされました。
 刑死者は共同墓地に埋葬されましたが、遺体が身に着けている物は、そこの墓掘り人夫が役得で分け合って持ち帰ったのね。 …、なんて、見てきたように言う私!!


 すみません、メモを手にした先生が現場をこっそり覗き見している姿を、つい想像してしまいました。(笑)

 あはは、、、。
 これも「見てきたような…」の話だけど、受刑者が遺言で形見のもの、例えば身につけていたロケット等を誰か家族や知人に遺したいと書いておいたら、運が良ければその人の手に届いたこともあったようです。
 でも、ネコババした奴も当然いたんじゃないでしょうか?


 リュウやサン・ジュストの上着の襟が、連載当初よりまた高くなってきましたね。アップのサン・ジュストを見ると、もうすっかりあごが隠れるくらいの高さになっています。

 ええ、これからまだ高くなりますよ。でも、内緒だけど襟が高すぎるのは、私はあんまり好きじゃないんですよね〜。描くけど。

 あ、あの、インターネットに掲載するお話で、「内緒」と言うのもむずかしいかと…。(笑)

 あと、キュロットというか膝下までのタイツが、今描いている時期の特徴です。

 リュウがベッドに腰掛けてブーツを脱いだ場面ではっきりわかります。

 それがナポレオン時代になるとくるぶしくらいまでの長さになるの。ぴったり脚にフィットした長いタイツみたいなズボン。 これも、私はあんまり好きじゃないんです、実は。でも、描くけど。(笑)


 今回、オランプがファーブルとデートの途中だったと言っていましたが、あれはリュウに二人の世話を押し付けるためのその場での思い付きですか?

 いえいえ、あのふたりは本当にデートしていましたのよ。

 それなりに将来を考えて付き合っているのでしょうか、それとも、気楽なお付き合い?

 オランプやファーブルのプライバシーもあるから、そのへんは内緒!(笑)

 そろそろサン・ジュストが動くかなという所で今回は終わりましたが。

 次回、やっとアデルがサン・ジュストに会うんですよね。そして…。

 あ、先生、そこまでです。読者の楽しみが…。(笑)

 うん、まあ、なにしろアデルは女台風ですから、動けばまわりを巻き込むのよ。リュウもサン・ジュストも困るだろうなあ。

 アデル本人は普通の女の子のつもりみたいですけれど。

 全然、普通じゃないわよね。

 それに、いくらリュウに「巣にかえれ」と言われても、いまさらドイツには帰れませんよね。

 そうですとも、帰れません。帰るつもりもないだろうし。
 ともあれ、このひと騒動の後、サン・ジュストは戦場に向かうので、もうすぐ髪を切ります。いくらなんでもあんな長髪では戦場にはいられないものね。


 サン・ジュストの本当の容姿はわからないそうですね。

 そうなの。 残っている肖像画がみんなまちまちで、死ぬほどブスなものから、うるわしいものまで顔立ちが様々なら、体格も華奢だったりたくましかったり、髪の色もとりどりです。
 ですから、創作の世界では好きに出来て嬉しいキャラクターですが。


 いつ頃からサン・ジュストは「有名人」になったのでしょうか?

 ええとね、カミュとかミシュレなんかが耽美的とも言える名文で絶賛していますよ。 なにしろ、華々しく生きて、若くして刑死、しかも謎が多いと、伝説の題材にするのに絶好の条件がそろっていますから。

 『杖と翼』のこれからのお話の中で、アンドレア・シェニエとかラボアジエは登場しないのでしょうか?

 ドラマになっている人や面白い人はたくさんいますよね。ゲーテもあの時代だし。 ただ、あれこれ登場させると話が長くなってしまうので。
 うーん、そうね、詩人のアンドレア・シェニエはモデル的に使うかも。 でも、わかりませんね。ウィともノンとも言えません。


 ペンの向くままですね。

 そうです。 あ、そう言えば、オペラ『アンドレア・シェニエ』(ジョルダーノ作曲)のCDは、ゆりあさんにもらったのよね?  「黄金のトランペット」ことデル・モナコ盤の。どうもありがとう。

 いえ、先生はもうすでにお持ちだったそうですが。

 あはは、そうでしたっけ?
 ところで、音楽と言えば、今回の『杖と翼』執筆中のBGMはブルックナーの交響曲7番でした。ヨッフムの指揮で。


 オイゲン・ヨッフムのブルックナーですか?

 うん、そう、大コテコテのロマン主義の。 それで重くなりすぎたら、ウーゴ・デイアスのハーモニカ・ヴァージョンのアルゼンチン・タンゴに切り替えていました。 これも素晴らしいのだわ!
 アシスタントさんたちはロックよ。ロックは私も好きだけど。


 アシスタントさんたちと別室でお仕事していらっしゃるのですか?

 そうなんですよ。生活のリズムが違いますから。 基本的にアシスタントさんたちは夜型だけど、私はできるだけ普通の昼型の生活をしたいの。 あくまでも…理想…なんですが。(笑)

 今回は何日徹夜なさいましたか?

 2日です。音楽に飽きるとアシスタントさんたちはラジオをかけて、私は無音になります。私は音がなくても割と平気なの。

 次回3月号(2002年1月26日発売)は38ページ、少し淋しいといえば淋しいです。

 ごめんなさい!!
 今ね、荒れないで絵が描けるのが、それくらいのページ数なんですよ〜〜〜。 本当は毎回60ページくらいで行ければお話の進行も早いのだけど。 あと10歳若かったら…、って、前世紀に比べちゃいけないわね。
 まあ、舞台も登場人物も整って物語が始まりましたから、これからは少しずつ楽しんでいただけると思います。
 波乱の時代、人と人がぶつかりあって愛と悲しみと憎しみが生まれ…、どう展開するか作者本人もわかりませんが、どうぞ最後まで読んでくださいね。



 往年の漫画が文庫で復刻されるようになって、そろそろ10年近くになるでしょうか。先生の文庫の表紙は写真画像、描きおろしの絵、以前お描きになった絵と三種類ありますね。

 その理由は、ええと、話せば長いことながら…。
 秋田書店が漫画を文庫化しはじめて、まず、手塚治虫先生の作品で大成功したのね。
 ところが、女性作家の作品は取り上げたことがなくて、1995年に『アンジェリク』の文庫版が試金石みたいに出版されました。

 その頃は、秋田書店では、「文庫の表紙に漫画の絵を使うなんてことは考えられない」時期だったので、作品のイメージにあった画像を作って表紙にしていたのね。

アンジェリク1 アンジェリク2 アンジェリク3
初版1995年6月10日 初版1995年6月10日 初版1995年6月10日

 『アンジェリク』の場合は、当時の担当の方が、「アンティーク小物にしましょう」と言って、ずいぶん探し回ったそうです。 実は、私はそれほどこだわっていなかったのですけど。
 結局、「一番気に入ったのは美術館が貸してくれなかったから二番目のものになりました」と、アンティークな帽子や扇を持ってきて、花や羽をあしらって表紙画像を作ってくれました。 年代的にはちょっと新しすぎる小物もあるけど、どれもきれいにできているでしょう?

花の名の姫君 銀晶水 抱えているのはあやめか菖蒲か
初版1997年8月10日 初版 1998年6月10日 初版1997年6月10日

 そして、1997年の『花の名の姫君』はかんざしと桜を、1998年の『銀晶水』は鏡と湖水とバラを、それぞれ作品のイメージに合わせてコンピュータ合成した画像を使いました。

 一方、同じ時期に出すことになった小学館文庫の表紙は、「漫画の絵をアレンジしたものにしましょう」ということになり、それが広く読者に受け入れられたのね。 私の作品で言うと1997年に文庫になった『大江山花伝』が最初かな。

 その後、秋田書店も、「うちの表紙でも漫画の絵を使いましょう。 でも、せっかくだから描き下ろしで」、ということだったのですが…。
 25年も前の作品の表紙を描いても、当時の雰囲気は出ませんよねぇ。

マーガレットコミック 
天まであがれ! 3 秋田文庫 
天まであがれ!2

 「とにかく描いてください」と言われて、『天まであがれ!』『あーら わが殿!』は描き下ろしました。 土方さんの上着を同じにしたり、みちるに矢絣(やがすり)の着物を着せてみたりもしたけれど。 ……、やっぱり無理ですわ…。

マーガレットコミック 
あーら わが殿! 前編 秋田文庫 
あーら わが殿!全1巻

 実際に描いたものを見て、秋田書店の方々も、「全然違うものになる」と納得してくれたのね。 以来、今まで描いたうち、残っている色原稿の中から、表題作や収録作品に似合っているものを選んで使うようになったのでした。
 以上、説明終わり。(この文中、私が忘れていた年代の確定はゆりあさんがしてくれました。ありがとう)
2001年11月27日電話にて
引用転載厳禁
(2001.12.9 up)

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2001年11月27日 その2

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