フラジオレット フラジオレット(英 flageolet, 伊 flagioletto) (1) フルート属の木管楽器の一つ。縦笛式で、菅の背面に二つ、全面に四つの指孔を持ち、主に17〜19世紀に使用された。 (2) 弦楽器の特殊な奏法によって得られる笛のような柔らかい音色。ハーモニックス。 小学館 日本國語大辞典 第9巻より |
1, つむじ風 |
ウルリーケは衣裳持ちだ。祖父母がなにかにつけて、彼女のものをあつらえたがる。
夜会服に限らずコート、帽子、はては馬車から馬まで「あの子に似合いそう」と言っては16歳の孫娘に買い与える。
だから、ろくに袖も通さないうちに小さくなってしまった夜会服が山のようにあった。 |
館をとりまく木々は、悲喜こもごものメーリンク一族の歴史を見続けながら、新しい若葉を今年も芽吹かせている。 穏やかな春の午後、ドイツ各地はもとより、オーストリア、フランスなど各国から疎親の一族が集う茶話会が開かれようとしていた。 溺愛する孫を一族に引き合わせるために、メーリンク夫人が久しぶりに主催する会だった。 もっとも、当主であるメーリンク子爵は、あくまで出席を拒んで別荘に出かけてしまったが。 |
「胸が大きく開いているのはいくらなんでも無理よね。この白いのはどう? 襟元のレースが豪華でしょう?」 |
ベルリンからパリまでの軌道は、いくつの山を越え、いくつの川を渡るだろう。
思音は摩利を連れての長旅なので、途中のフランクフルトで一泊して列車を乗り継いだ。
ベルリンではしゃぎすぎたのか、摩利は車中では終始まどろんでいた。
思音にもたれていると車輪が枕木を踏む振動が思音の鼓動のように感じられる。
何時間も父に寄り添っていられるのは、物心ついて初めてだった。
このときばかりと、日がな列車に揺られるのも苦にもない摩利だった。 |
後年、ウルリーケが新吾に「メーリンクのおじいさまには男の子が3人いるけれどみんな養子なの。
わたくしの父もね」と語っているが、アグネスとウルリーケの父は、メーリンク子爵の実の従弟 ― 年は親子ほどにも離れているが ― だった。 |
規則正しい列車の轍の音を背景に、パリの日常生活のこと、音楽のこと、夏のバカンスのこと、アグネスと思音の会話が続いている。 (2001.2.23 up)
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