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◆◆ コンサートレビュー 17 ◆◆


ハンス・ウェルナー・ヘンツェ オペラ『バッサリーズ』 (2005年4月15日 パリ・シャトレ座)
ル・モンド紙に掲載された公演批評(和訳)


『バッサリーズ』 美徳に対する快楽の勝利
シャトレ劇場で、ヘンツェのオペラ、ラジオ・フランスのストによりオケを縮小した版で演奏される


2005年4月21日付 ピエール・ジェルヴァゾーニ

 ハンス・ウェルナー・ヘンツェ(1926年生)がものした8つの大規模なオペラ作品の6番目にあたり、ディオニソス崇拝の到来に想を得て書かれた『バッサリーズ』は神々に呪われているに違いない。
 作品の初演は、さまざまな障害のため、ウィーン、ベルリンとたらい回しにされ、1966年、ようやくザルツブルグ音楽祭で実現した。
 フランス初演は、オーケストラの都合がつかないという珍事に見舞われた。

 ラジオ・フランスの管理・技術部門の人員のストライキのおかげで、フランス放送フィルが出演出来なくなり、ラムルー響を代演に立てるという案もお流れになった。
 そのため、指揮者の大野和士は、百人近いフル・オーケストラの代わりに、21台の楽器による縮小バージョンで演奏することを決意せざるを得なくなった。
 オケの全奏の効果を出すため三台のピアノを用いたこの版を採用した結果、公演のキャンセルは避けられることになった。
 シャトレ劇場支配人ジャン=ピエール・ブロスマンは、発表された声明のなかで、この措置を「異常」な事態に対する「抵抗行為」だと述べている。

美しいイメージ

 しかしながら『バッサリーズ』において「抵抗」という問題は哲学的な問題としても提示されている。
 ヘンツェのオペラはオーデンとカールマンの台本による1幕のオペラ・セリアで、テーベの王ペンテウスと、外国人に身をやつしたディオニソスとの対立を扱っている。
 美徳を愛する若き君主は、官能的な快楽を唱道する異教の神に闘いを挑むが、ソナタ、ダンス組曲、アダージョ、パッサカリアと交響楽が織りなす4ラウンドの試合を持ちこたえることができない。

 両者の闘いを描くヤニス・ココスの演出は、きわめて静的で、また、合唱が儀式張った足取りで舞台上をそぞろ歩くという手法を多用しすぎているが、美しいイメージをつくりだしている。
 美的な構想の面では、ココスは馬小屋の聖家族を演じる活人画と、神話を素材にしたスペクタクル映画の間を揺れ動いている。
 それに応じて、彼の作り出すイメージは時には絵画的でもあり、映画的でもある。
 激しく鳴り渡る金管群や、厚みのある弦楽器の響きがないため、最初は、欲求不満気味だったが、力強い大野和士が指揮した器楽アンサンブルは、驚くべき劇的効果をもつヘンツェのスコアに余すところなく光をあてた。

 しかし、困難な状況のなかでシャトレ劇場の『バッサリーズ』に勝利をもたらしたのは、終始すばらしい出来映えを示した声楽陣だった。
 輝かしいテイレシアスを歌ったキム・べーグレー、心を打つベロエを演じたレベッカ・ド・ポン・ダヴィら脇役も強力な存在感を示した。
 ジューン・アンダースンは、卓抜なフレージングと色彩感にあふれた模範的な技術で、ペンテウスの母アガウエのバッカス的な狂乱を表現した。
 二人の主要登場人物の対立は、声楽的もディオニソス側に軍配があがった。
 ドイツ出身のテノールライナー・トロストは、金管楽器のような輝きと、蜂蜜のような甘さで、アメリカ人バリトン、フランコ・ポンポーニ演じる野獣めいたペンテウスを屈服させた。
 ポンポーニは挑戦の場面より、敗北の場面の方が魅力的だった。

ピエール・ジェルヴァゾーニ


翻訳 : 大野英士
(2005. 4.29 up)



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