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◆◆ コンサートレビュー 6 ◆◆
  附 『私を裏切った光』の略説とあらすじ


室内オペラ 「私を裏切った光」 サルバトーレ・シャリーノ
Opera in two acts. Music by Salvatore Sciarrino.
Based on "Il tradimento per l'onore" (1664) by Giacinto Andrea Cicognini with a musical elegy by Claude Le Jeune (1608).


March 16, 2001 La Monnaie, Brussels
Annette Stricker - - - La Malaspina
Lawrence Zazzo - - - Voce dietro il sipario / L'Ospite
John Browen - - - Un sevo della casa
Paul Armin Edelmann - - Il Malaspina

Kazushi Ono - - - Conductor
Trisha Brown - - - Staging director
Roland Aeschlimann - - - Costume designer
Orchestre Symphonique de la Monnaie

stage photo
(c)Johan Jacobs
 2002年9月の音楽監督就任に先立って、大野和士がブリュッセル・モネ劇場にオペラ・デビューしました。
 オーケストラコンサートでは、1999年以来、同劇場でも実績を積んでいる大野ですが、オペラでは2001年3月16日、シャリーノの室内オペラ「私を裏切った光」と現代作品がお披露目になりました。

theater.jpg
ベルギー王立モネ劇場の外観。 今回のシャリーノのオペラは裏手にある別館で行われた

 室内オペラと銘打つだけあって、劇場裏手の別館にある400席ほどの小劇場で上演されました。
 現代音楽祭の一環でしたが、他の演目の聴衆が“現代音楽愛好家”だったのに対して、この演目だけはほとんどモネ劇場の定期会員、即ち“普通のクラシック音楽愛好家”で全8公演が満席になったそうです。

 このページの最後に『私を裏切った光』の略説とあらすじを掲載しましたが、「え? これがオペラとして舞台で上演されるの?」とちょっと、たじろいでしまう物語です。 日本のメディアでも大野和士モネ劇場オペラ・デビューは取り上げられ、テレビのレポート番組でリハーサルの模様が報道されました。 その時に音楽も少し流れましたが、それもうっとりするような…と形容できる雰囲気ではなかったというのが正直なところです。

 ところが(と言うのも失礼ですが)、初日から大成功で観客はもちろん、作曲者・シャリーノ、フランス、UAS、ドイツなど世界中から集まった音楽評論家が、惜しみない拍手を送っていたと速報が入りました。
 日頃親しんでいる古典的なオペラ作品と同じように、実験的な要素をもつ現代作品に素直に向き合えるのは、ブリュッセルの聴衆の質の高さの現われではないでしょうか。 もちろん、“楽しめるオペラ作品”に仕上げるスタッフ側の力量があっての話ですが。

 翌4月に帰国した時に、「大成功と聞いていますが、大野さんご自身の手ごたえはいかがでしたか?」と尋ねたら、「『とても美しい』という感想が多数聞かれましたよ」とのお返事でした。 あらすじ等を読むからにはとても想像できない「美しい」という言葉に、私は思わず「『美しい』ですか?」と聞き返してしまいました。 と、同時に表現形態としてのオペラの奥深さを、改めて認識しました。

Sciarrino with Ono
初日終演後のレセプションにて、作曲家シャリーノと大野和士


 感銘を受けたのは観客ばかりでなかったようです。 この公演の後、オーケストラ団員が何人も「大野和士との契約がわずか3年というのは失策だ。 (もっと契約期間を長くすべきだった)」と事務局に抗議したとか。
 このプロダクションは、2001年7月ニューヨークの「リンカーンセンター・フェスティバル」でも、モネ劇場の引越公演として4回上演されます。 あらすじに惑わされて3月のベルギーを見損なった方には、リベンジの好機というところでしょうか。 (ニューヨーク公演の日程は公演情報をご参照ください)

長木誠司先生がHP『閑古鳥の部屋』で、3月24日の舞台をご覧になってのレポートを書いていらっしゃいます。 ご厚意によって直接のリンクをはらせて頂きました。 『2001年3月24日(土) ブリュッセル2』

写真を提供してくださった梶本音楽事務所に厚くお礼を申し上げます。
(本文敬称略)


( 2001.5.4 up )


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サルバトーレ・シャリーノ
歌劇「私を裏切った光」I luci mie traditrici 
略説とあらすじ
【現代イタリアを代表する作曲家シャリーノ】
 シャリーノSalvatore Sciarrinoは、1947年パレルモ生まれ。独学で作曲を学んだ。
 オペラ「私を裏切った光」(仮題) I Luci mie traditriciは、1998年5月にドイツのシュヴェッツィンゲン音楽祭で初演された。
 原作は、現在ではすっかり忘れられてしまった17世紀の劇作家チコニーニの戯曲にもとづいている。

 1590年にイタリア・ヴェノーサの侯爵で、著名な作曲家でもあったジェズアルドが、激しい嫉妬に燃えた末、妻とその愛人を惨殺するという事件が起き、当時の一大スキャンダルとなった。

 戯曲は、この実際に起きた事件を題材に書かれているが、シャリーノは、この戯曲のあらすじを追うのではなく、登場人物の心理的葛藤――愛、嫉妬、エロチシズム、憎悪――を、声とオーケストラに凝縮してコラージュのようなかたちで、1時間のドラマに仕立てている。
 嫉妬に駆られる夫ジェズアルドは、伯爵マラスピーナ(悪意に満ちた棘)という仮名で登場する。
 その他の登場人物は、伯爵夫人マラスピーナ、伯爵家に逗留する男、召使だけとなっている。


【あらすじ】
  第1場 マラスピーナ伯爵は伯爵夫人に、人目につかずに咲く薔薇の花を示す。
伯爵夫人は薔薇を摘もうとして、棘を刺す。神経が繊細な伯爵は、血を見て気絶する。

  第2場 伯爵と伯爵夫人は、永遠の愛を誓い、その甘美さに酔う。
召使は、伯爵夫人を密かに愛しているため、自暴自棄になる。

  第3場 伯爵家に逗留する男性客と、伯爵夫人との間に、次第に恋の感情が芽生える。
不倫と知りながらも、ふたりは感情の高まりに身を任せようと決意する。

  第4場 召使は、客と伯爵夫人が密会の約束をするのを、盗み聞きする。

  第5場 夫人に片思いする召使は、すぐに密会の件を伯爵に報告する。
伯爵は、その事実をどうしても受け入れることができない。

  第6場 伯爵夫人は追い詰められる。伯爵は「愛している。お前のあやまちは、もう許された」と何回も繰り返す。
その夜は、伯爵夫人のもとに伯爵が訪れることになる。

  第7場 伯爵は伯爵夫人に、「今夜は、枕の中に銀梅花のかわりに、糸杉の枝を挿すように」と告げる。
ベッドが用意される。

銀梅花は、花嫁の冠に使われる純潔の象徴
糸杉は、悲しみの象徴

  第8場 伯爵夫人は伯爵に、「あなたの幸せのために命をささげる覚悟です」と告げる。
伯爵は、「その愛の証明をベッドで見せて欲しい」と言い、たいまつに火をつける。
伯爵は伯爵夫人に、「かつてお前が喜んでやっていたように、ベッドを覆う幕を開けなさい。そこに、お前の本心が現れるだろう」と命じる。
幕を開いた伯爵夫人は短剣に突き刺され、すでに息絶えた愛人の上に重なり合うように倒れるのであった。
たいまつは、死者の床に灯されるのが慣例

資料提供:大野和士
( 2000.12.25 up )



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