コンスエラ・レポート

〜〜 どうしたのデイジー?から摩利と新吾までの大ロマン 〜〜


1,はじめに
 かつてのDOZIさまの作品には、コンスエラという 風変わりな名前の脇役キャラクターがいました。彼の相棒はジギー。  「DOZI漫画の原点は『摩利と新吾』だから、この二人の名前など聞いたこともない」とおっしゃる方にも、 ちょっと縁(えにし)ある二人です。というわけで、その縁を語るこのレポートにも しばらくお付き合いいただけると嬉しいです。
 なお、このレポートで登場する作品名は次の通りです。ご参考までに。

1973年(昭和48年)作品 どうしたのデイジー? 、エメラルドの海賊 、
銀色のロマンス、あーら わが殿!
1975年(昭和50年)作品 天まであがれ!
1977年(昭和52年)作品 摩利と新吾 (完結1984年(昭和59年))
1991年(平成3年)作品 花の名の姫君
2,『どうしたのデイジー?』から『エメラルドの海賊』 (1973年)
マーガレットコミックス 「どうしたのデイジー?」P16より
 コンスエラジギーが 初登場したのは『どうしたの デイジー?』
 その時の役どころは主人公ダグラスやそのライバルであるフィリップたち の従兄弟。つまり名門クィンズベリ一族、“欧州屈指の名門校・聖ジョージの誇り高きベスト5”の 一員として華々しいデビューでした。
 右がコンスエラジ ギー初登場の場面、3人並んだ右からジギーコンスエラスウェン。 ここにフィリップと相棒のダグラスが加わってベスト5となります。
MC 「どうしたのデイジー?」P29より

 レポートの内容としては全く必要ありませんが、私の趣味で5人そろった姿もご覧頂きたいと思って 載せてしまいました。
 左から、スウェン、コンスエラ、ダグラス、フィリップ、ジギー、一族の最高権力者であるおじいさまにご挨拶の 場面です。「おじいさまは1900年生まれだからうるさいぞ。ダークスーツ ダークスーツ」と、5人で どたばた着替えを済ませた後のおすまし顔をご覧下さいませ。
 なお、フィリップについての詳細 は、フィリップ身上書一覧をご参照いただければと思います。

 続いて、『エメラルドの海賊』でも、お神酒徳利よろしく コンスエラジギーは ペアで登場。
 右のコマに3人並んだ右から、ジギーコンスエラスフィンクスです。 この時も、ダンセイニ王国の廷臣の子弟で、王子・アスール・ローリンドのお取りまきと名門の役どころでした。
MC 「エメラルドの海賊」
前編P43より

 角川全集2『エメラルドの海賊』の後書きによると、これはDOZIさまが週刊マーガレットの「大舞台だった ので、夢中で取っくんだ」そうですが、不慣れな週刊連載で筆舌に尽くしがたい極限状態だった ようで、「私はといえば疲労のあまり、立ったままで気絶していたこともございますの よ(ほんとだってば!)」とか…。

 その締め切りとの壮絶なせめぎあいのためか、コンスエ ラジギーが、写実的?に描かれている コマがあまりないのです。脇役を細かく描いている時間がなかったのかもしれません。 でも、お気に入りのキャラの周りにはちゃんと“はなっ”が飛びかい(画像ではボケていますが)、二人 は羽飾りのついた色違いの帽子でペアルックです。
3,モデルとネーミング
 当時、DOZIさまはグラム・ロックが特にお気に入りだったようで、週刊マーガレット1973年50号P133の 「木原先生のアジト公開」なる図(DOZIさまの手描き)によると、 DOZIさまのお部屋にはアラン・ドロン、マーク・ボラン、デヴィット・ボウイの大型のポスターが張って あると示されています。同じく図中のレコードボックスは「主にロックとクラシック」と注釈つきです。
MC 「エメラルドの海賊」
前編P15より

 で、あれこれ考えるに、黒髪のジギージミ・ヘンドリック ス、カーリーヘアーのコンスエラマーク・ ボランスフィンクスデヴィット・ボウイをモデルにしているのではないでしょうか。 (ジミ・ヘンドリックスは黒人ですが…)
 ジミ・ヘンドリックスは1970年に亡くなった天才ロックギタリスト、 1960年代末にイギリスから興ったグラム・ロックは1970年代に ブームを迎えますが、デヴィット・ボウイマーク・ボランはその双璧でした。

 余談になりますが、かつてBBSでも話題になったので“スフィンクスのご縁故筋”?にもふれておきましょう。
 スフィンクスと同じくデヴィット・ボウイがモデルのキャラクター が『摩利と新吾』にも登場します。
HC 「摩利と新吾3」P72より
そう、設楽 星男(しだら ほしお)です。『摩利と新吾』vol.8「緑紅最前線」のひとコマでは “星男”のルビが“スターマン”となっていますが、1972年のボウイのアルバム 「ジギー・スターダスト」には“スターマン”という曲が収録されています。
 “スターマン”のルビつきの星男はお役目とはいえ女装姿、また、このときに限らず、星男は『摩利と新吾』全 編を通じて“女嫌い”で通します。ボウイもアルバムにドレス姿で登場したり、ゲイ発言があったりと、 ルックスばかりのモデルではないようです。
 ついでながら、池田理代子先生の『オルフェウスの窓』の第一部から登場するダーヴィトも、 スフィンクスのような、星男のような風貌で、ふと、気づけばダーヴィトなんて、そのままDavidの ドイツ語発音です。しかも、ダーヴィトも男子専科の音楽学校の学生時代、恋愛対象に関して「特殊な 趣味の持ち主」と思われていたしで、ここにも色濃くボウイの影がうかがわれます。

 さて、お話を本筋に戻しましょう。私の推論に今しばらくお付き合いくださいませ。
 確証はありませんが、ジミ・ヘンドリックスをモデルに「ジギー・スターダスト」に 由来しているのが、ジギーではないかと思われます。
MC 「エメラルドの海賊」
後編P44より
 次に、コンスエラですが、 これはマーク・ボランCONESUALA(コネシュアラ)とい う曲に由来していると思われます。CONESUALAをローマ字読みにしてみると、なんとな くコンスエラと読めませんか?
 マーク・ボランT.Rex(ティーレックス)というバンドを組んでいましたが、問題の CONESUALAは、T.Rexの前身である TYRANNOSAURUS REX (ティラノザウルスレックス)時代のセカンドアルバム 「Prophets, Seers and Sages, the Angels of the Ages」(1968年)に収録されているのだとか。

 1973年当時、毎週、マーガレットを回し読みしていた仲間のひとりが、 中学生の身でありながら日本で屈指のマーク・ボランのオタクでした。 (彼女は後年、日本人で最初のイギリスのボラン・ファンクラブの会員になったらしい…)
 彼女の目から見れば、コンスエラボランをモデルに しているのは一目瞭然、しかも「ディディ ボンボン!」なんて、ボランがライブで繰り返したフレーズを 口ずさんでいたりするのだから、もう、大のお気に入りキャラ。  そして、ある日のこと、
コンスエラの名前の出所がわかった!  マーク(彼女はボランを常にファーストネームで読んでいた)の昔のアルバム見ていたら、 コンスエラって読めたんだもん! あのアルバムまで聞いているなんて、 DOZIさま、マークがよっぽど好きなんだわ。」
 彼女のお蔭で、四半世紀を経て私はこのレポートを書くことができました。
  4,『銀色のロマンス』から『あーら わが殿!』 (1973年)
MC 「エメラルドの海賊」
後編P140 同時収録
「銀色のロマンス」より
 『エメラルドの海賊』の連載終了後、『あーら わが殿!』の連載開始前に 週刊マーガレットに掲載されたのが『銀色のロマンス』でした。 ヒロインは天然パーマ、げじげじ眉毛のフィービーちゃん。
 このフィービーのフルネームが、“フィービー・コンスエコ・アトレイデ”。 どうやら、コンスエラの女性形?らしい…。 『エメラルドの海賊』の後、姿を見かけなくなったコンスエラジギーですが、どうやら コンスエラの系列のキャラクターは女性パート?を担当することになった模様…。
MC 「あーら わが殿!」
前編 P147より
MC 「あーら わが殿!」
後編 P139より

 そして、次の登場が『あーら わが殿 !』この女です。 そう、『摩利と新吾』の前身でありパラレルワールドでもある『あーら わが殿!』時代か ら、摩利や新吾とともに、この女もこの世界に登場していました。
 左の画像がこの女初登場の場面です。ストーリー的には名前も キャラクター設定も、まだ、読者に知らされていない段階のひとコマです。が、その手元にご注目ください。 手紙を書いている様子ですが、その文面が「ばれんたいんさま お元気」
と 読めます。(ひらがな縦書き)

 バレンタイン『銀色のロマンス』の舞台となったアトレイデ家の 次男坊の名前。つまり、この手紙を書いている少女は、フィービー・コンス エコ・アトレイデに連なるキャラクターのようです。だから、その名前が この女になるのでしょう。古文の教科書風の表現をする なら「コンスエラの女(むすめ)」というところでしょうか。
 ついでながら、相槌を求める時の「んね」は、この頃すでにこの女の 口癖でした。

 『あーら わが殿!』で初登場するキャラクターのひとり が白菊丸です。
MC 「あーら わが殿!」
前編 P57より
HC 「摩利と新吾 13」
P128より
こちらの白菊丸は、『摩利と新吾』の白菊丸と違って苗字が明らかにされていないのが、 ひとつ、特徴といえば特徴かもしれません。
 私は、この黒目がちの脇役キャラクターが、やはり、黒目がちで中性的美少年ラインをたどって いたジギーに連なるキャラクターだと思います。ただ、 そのように考える根拠をここで詳しく書くと、そのまま『あーら わが殿!』のネタばれになりますので 省略いたします。と、申しますか、私が解説めいたことを書かなくとも、この作品をお読みいただければ、 ご納得いただけると思いますので…。(『あーら わが殿!』は秋田文庫から復刻していますから、 是非ご一読くださいませ。ISBN4-253-17558-9)

 この女が、『あーら わが殿!』の後、 『摩利と新吾』までキャラクターとしては姿を見せないのに対し て、かたや白菊丸『天まであがれ!』でも大活躍、 時代の激流の中で、健気に雄雄しく自分の真実を貫きます。

 もちろん、『摩利と新吾』では、存在感ある脇役として、 この長編作品の要所ごとに登場し、この女と“必殺の童顔コンビ”なるユニットも結成?していま す。『どうしたのデイジー?』時代、『エメラルドの海賊』時代のコンスエラとジギーペア以 来のユニット再結成というところでしょうか。
5,『花の名の姫君』 (1991年)
 さて、もうひとつ、白菊丸という名前のキャラクターが登場するDOZIさま作品があります。 それが『花の名の姫君』です。
 この作品の冒頭からキーパーソンとして登場するのですが、敢えて“白菊丸という名前のキャラクター”と 書いたのは、『摩利と新吾』までの白菊丸の面影は全くないからです。 単に、『摩利と新吾』完結から7年の月日が流れて画風が変化したというだけの事情ではなく、 『花の名の姫君』の白菊丸は、それまでの白菊丸とは“同名の別人”といえるくらいの違いがあります。
 むしろ、逆に、「別人でありながら何故、同じ名前を名乗っているのか?」と 考えた方が良いかもしれません。

 このHPの書籍資料でもご紹介していますが、『花の名の姫君』は記念すべき、DOZIさまの“歌舞 伎作品の少女漫画化第一号”です。と、すれば当然、原作である“歌舞伎作品”が存在するわけで、それ が鶴屋 南北作の『桜姫東文章』(さくらひめあず まぶんしょう)です。
 『桜姫東文章』のストーリーなどを調べて見たところ、原作でも当該キーパーソンの名前 は白菊丸となっていました。
 角川書店 ASUKA COMICS『花の名の姫君』の1991年5月付けの“口上”(こうじょう)に、 DOZIさまは「私が歌舞伎を見はじめてから、もう、10数年ほどたちましょうか…。」と書いていらっしゃいます。
 『あーら わが殿!』のキャラクター設定の時、即ち1973年の時点で、DOZIさまがすでに『桜姫東文章』の舞台を ご覧になっていたのか、或いは、筋書き等資料などを参照なさったのか、私がここで判断することはできませ んが、白菊丸の名前は、歌舞伎『桜姫東文章』に由来している可能性は、 少なからずあるといえるでしょう。

 近時“元祖ヴィジュアル系”と形容されるくらい華々しかったグラムロックに由来する“コンスエラの女 (むすめ)”と、衣装、豪華絢爛、舞台、度派手な歌舞伎に由来する“白菊丸”の ユニットとは、DOZIさまの知識の広さ、 教養の深さ、そしてしなやかな感性には驚嘆するばかりです。
6,さいごに
 私は、ロックの世界にも歌舞伎の世界にも、非常に疎いのでこのレポートの作成のため に、「みるみる・趣味の部屋」みるみる さまにマーク・ボランについて、水玉みかんさまには『桜姫東文章』について、それぞれ情報を 頂きました。ここに記してお礼を申し上げます。
(2000.5.2 UP)

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