あとがき

 長長と拙文をお読み下さいましてありがとうございました。
 我ながら本当に無謀だと思います。告白しますと、「通奏低音」は、私が初めて書いたストーリー性 ある文章です。文章を書くのは好きなのですが、“お話”を考えることができないので、 物語を書くのは子供の頃に諦めていたはずなのですが・・・。
 それを何を思ったのか突然、思い付きで書きはじめ、あろうことかHPで不特定多数の方にご覧頂く なんて、恐れを知らないにもほどがありますよね。今となっては冷や汗もの、もう、二度とこんな 無茶はしないでおこうと思っています。
医学部志望だ
大博士になる

 でも、どうしても、落ち着かなかったのです。
 摩利が富豪で貴族、女の子たちに「摩利さま」と呼ばれているのに、新吾は優秀ではあっても単なる 勤務医ではお神酒徳利のバランスが良くないような…。 しかも、莫大な借金を背負ったままではかわいそうすぎる…。

 発想の発端は「あーら わが殿!」のなかで、 新吾がみちるに言った一言、「そうだ いまにきっと大博士になる!」でした。
 縞りんごの新吾だって勤務医だけで納まるタマじゃない。どうせ博士号なら帝大 だけではつまらない、もっと国際的な大博士になってもらわなくては。それほどの学者で あれば当然、借金も完済できねばなりませぬ。
…などなど、妄想が膨れてここまでになってしまいました。

 『摩利と新吾』にはまった私にとって、摩利や新吾はフィクションを越えた存在になって います。ですから、“彼らの生きた時代”を自分なりに確認しておきたい気持ちもありました。
 そうは言っても、昭和3年(1928年)から昭和11年(1936年)と言う時代は 日本も世界も第2時世界大戦に向かう時期であり、どうしても世情が暗くなります。 そこで、せめてもと思ってオリンピックを時流の目安にしてみました。それでも、時代を反映した 生々しい現実は払拭できません。

   時代背景を調べているうちにもう一つ気づいたのは、ボーフォール公爵や思音伯爵が、 私が子供の頃大好きだったアルセーヌ・ルパンと同年代か、やや若いくらいの世代だと 言うことです。
 という訳で、これ幸とばかりに『通奏低音』にはアルセーヌ・ルパンの小道具を片っ端から 盛り込んでしまいました。極上の葉巻はハヴァナからの輸入品(葉っぱの産地は他所だけれど、加工がハヴァナだったとか未確認の話を聞いています)、大事なものは特注のモロッコ革の小箱に入れて…。ついでにボーフォール公の娘婿の名前ラウールにいたってはルパンの本名を拝借しています。

 ところで『通奏低音』(つうそうていおん)というタイトル、わかりにくいでしょうか。
 音楽用語辞の“通奏低音”の解説を引用すると、「17-18世紀のヨーロッパで広く行われたもので、 鍵盤楽器奏者、またはハープ、リュートなどの撥弦(はつげん)楽器奏者が、与えられた低音の上に、 即興で和音を補いながら伴奏声部を完成させる方法、およびその低音部をさす。 独奏パートが休む場合も、低音楽曲は一貫して演奏されるところから“通奏”と呼ばれ…」 と、専門的な解説が何ページも続きます。つまり、正確なところは一言で説明できない かなり複雑な音楽用語です。
 が、何事にもアバウトな私のこと、そんな厳密な意味付けはありません。 “主旋律ではないけれど、主旋律支えて音楽を成り立たせるために、連綿と続く伴奏部分”を イメージして借用しました。ですから、厳密な意味では誤用と言えるかもしれません。

 そんなこんなの素人の作文ですが、ご笑覧いただければ幸いです。  
(2000.2.28 up)
著作権法32条に因り画像を掲載しています
DOZIさまが良いの! 目次 / HOME PAGE