水玉みかん さん、
1999年11月に秋田文庫で復刻した 『銀河荘なの!』考 、まずは、ネタばれなしバージョンからです。

いよいよ 『銀河荘なの!』です。
前にも書いた事ですが、この作品が、週刊マーガレットに連載されていた頃、私は海 外に住んでおりました。
今と違って、家庭用ビデオもなけりゃ、インターネットもない。日本の情報からは、 隔絶された環境でした。 それでもラッキーな事に、日本から定期的にマーガレットを取り寄せている人がい て、何冊かずつまとめて読むことが出来ていました。

日なたへ日かげへのロマンス (主婦の友社 刊)より
ところが!。 『銀河荘なの!』が始まって間もなく、その人は日本へ帰国してしまったのです…。

再び襲う不幸の嵐。 思わせぶりな美形の4兄弟は、何者なんだ?
行方不明の婚約者は見つかるのか?

時々、思い出したようにマーガレットを目にする事もあったものの、いつしか途絶え て…。(普通、海外で見られる日本の出版物は、単行本が主で、雑誌はめったにない。)
結局、このお話の結末を読んだのは、数年後帰国してコミックスを買ってからのこと でした。

「ばらだらけの夜の中、おかっぱ頭をふって銀河荘のぼうやは考えた」
窓辺に立つジークフリート。とりかこむ大輪のばら。
このカラーページの載った号だけは、奇跡的に我家にずっとあったので、続きはどう なるのかと考えつつ、何度も何度もくりかえし読みました。 だから、コミックスを開いても、このページのばらだけは、私の目にはちゃんと赤く 見えるのです。

さて、この作品のいいところ。
(今月、文庫が出ましたから、各自、自力で発見して下さいと言いたいところです が、)全般的には、ゆりあ様の作品紹介、それから、今度文庫を出版した秋田書店の宣伝コ ピーなどで、言い尽くされているように思います。同じことを繰り返してもつまらないので、私が 個人的に気に入っているところを、ひとつだけ挙げておきましょう。

それは、この作品のタイトルです。
拙文にも流用させていただいているくらいで、「〜なの!」という、いかにも女の 子っぽい言いまわしが、大好きです。私は普段、関西弁で会話していますので、自分ではこういう言いまわし は使いません。 だから、よけいにお洒落な感じがするのかも。

試しに他の作品のタイトルに、「〜なの!」というフレーズをつけてみましょう。
『摩利と新吾なの!』
『夢の碑なの!』
『鵺なの!』
重厚なテーマの名作が、いっぺんに陽気なコメディになってしまいます。

他の作者のマンガですと、
『ベルサイユのばらなの!』
『日出づる処の天子なの!』
『ポーの一族なの!』
どこの能天気な一族の話かという感じですね。

ついでに、
『デビルマンなの!』
ずいぶん可愛くなって、長いまつげがザワザワありそう。
(ちょっと悪ふざけが過ぎたでしょうか。永井豪ファンの方々、失礼しました。) 私の中で、このタイトルとタメをはっているのは、もちろん『王子さまがいいの!』です。

ところで、この作品でヒロインの亡父として登場するフィリップ
このフィリップは、『どうしたのデイジー?』に登場した人と同一人物と思われます が、姓は「グレイ」になっています。ゆりあ様は、ペンネームであろうとおっしゃっていますが、その場 合、娘の名も「ビクトリア・グレイ」なのは、ちょっとおかしいのではないかと思います。

そこで考えたのですが、ダグラスが考古学者としてひとりだちした後、何事にもライ バル意識旺盛なフィリップの事、自分もクインズベリ一族を飛び出して、実力だけで人生を切り開く 道を選んだのではないでしょうか。もちろんそうなると、ダグラスのことはあきらめたおじいさまも、 黙ってはいません。
クインズベリ家の次期総帥として、フィリップに期待を寄せていたに違いないので す。しかしダグラスと尋常に勝負して勝ったと言うのならともかく、相手が棄権して補欠昇格のような形に 甘んじるフィリップでは、ありませんでした。
おじいさまと大喧嘩のあげく、フィリップはクインズベリ一族と縁を切ってしまいま す。そして名乗った「グレイ」は、たぶん母方の姓か何かでしょう。たとえその有り余る才能によって名を挙げるこ とがあったとしても、意地でも「クインズベリ」の姓は使ってやるもんか、というフィリップの覚悟が感じ とれます。

大学も「聖ジョージ学院」から、「聖ガブリエル学院」に移ったのでしょう。なぜか というと、クイーン教授は、パパ・フィリップと学生時代からの友達らしいのに、『どうしたのデイジー?』」に は、それらしい姿が見られないこと。またフィリップも「聖ガブリエル」の教授だったようですが、普通、出身 大学の教授になるケースが多いのではないかと思われること(一概には言えませんが)。

どうやら、クインズベリ家の人々とは没交渉であるらしく、孤児になったビクトリアの後見人は、クイーン教授です。 妻のパンジーは姿や話し方だけでなく、身の上もデイジーに似ていたの か、天涯孤独であったと見えます。そうでなければ、普通、父方か母方の祖父母か親戚が、保護者に なりませんか?

以上、水玉の妄想でした。
例によって、印象的なネームは数あれど、これだけははずせない、お気に入りのセリフ。
  「ある日 ふたりは めぐりあい、 たそがれ ぽっかり 花の中」
私だって、きっといつか誰かとめぐりあう、そう信じていた頃です。16歳でした。
(ストーリー及びテーマに関する事、どう考えてもネタバレになってしまいそう。
文庫も出て、入手しやすくなることですし、稿を改めて、作品を読み終えた人だけに 見ていただく文を別に綴りたいと思います。)

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お待たせしてすみませんっっ!! これだけ楽しい原稿を頂戴しながら、2年モノにしてしまったのは ひとえに私がぐーたらしていたせいですっっ!

私も『銀河荘なの!』とくればやはり血が騒ぐ世代でございます。
はい、薔薇だらけの窓辺にたたずむジークフリート、私にもこの薔薇の花は赤く見えてしまいます。
豪華な幕付きの寝台に淡いあじさい色のシーツとか、 薔薇のパイとか小道具全て少女漫画の本領発揮!でした。

しかも、美形キャラがレギュラーメンバーだけでも4人という大盤振る舞いですからね〜。それも、 この4人が4人とも容姿、性格、行動パターンにあげく女性の好みまで全てばらばらという個性派ぞろい。 たまりませんわ〜〜。

なんにせよ、秋田文庫から復刻していますから、是非ともご一読下さいませ。
70年代の漫画の持つパワーを、理屈抜きの感性で受け止めていただけたらうれしいです。
文庫といえども紙が良質で印刷もきれいですから、DOZIさまの作画の丁寧さも十二分に 堪能できます。ビクトリアの履いている厚底のサンダルのベルトまで、印刷が滲んでいないので 本当にうれしい。多分、リアルタイムの週刊誌よりずっと線のタッチの ニュアンスまで原画の雰囲気が味わえると思います。

「デビルマンなの!」、、、よいかもしれません、これ。ついでに、あ、いえ、やめておきましょう。 この類の暴走をはじめると、私は止まらなくなってハルマゲドン状態になってしまいそうですから。

それにしても、水玉さまの「フィリップ・グレイ論」、鋭いところをついていますね。『どうしたのデイジー』との 対比を含めて、実に体系的な考察に感服いたしました。
ダグラスやフィリップのおじいさま・クインズべり老が、
「まったく、目をかけた孫たちがなんと言うことだ。さすがにわしの孫だけあって、言い出したら聞かんわい」
なんて苦笑いしながら愚痴をこぼしているのが聞こえるようです。いえ、私も妄想の世界に入りやすいので…。
マーガレットコミックス
「銀河荘なの!」前編 P26より
このクインズべり老は「聖ジョージ学院」の理事長もしていましたから、全作品を通じて意地っ張りを持って なるフィリップとしては、おじいさまから、お給料や博士号をもらうような真似をしたくなかったのは、想像に難く ありませんね。
 「ある日 ふたりは めぐりあい たそがれ ぽっかり 花の中」
この台詞に自分で酔って乙女チックな妄想に浸っているビクトリアの前で、対応不能に陥ったヘルメスおにーさま (まだこの時点では、教授職についていなかったのよね)の一言、
「… ああ頭痛がしてきたおじょうちゃん」
との対比、絶妙です。

では、次回は水玉さまのネタばれ原稿です。これまた、すばらしくふかーーい体系的な考察が なされています。
皆様、『銀河荘なの!』を今一度、熟読してお待ちいただきますようお願いいたします。


(2000.3.9 up)(画像追加2000.5.14)


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