水玉みかん
さんの連載2回目は
『エメラルドの海賊』考です。
『愛は不死鳥のように』で、“木原敏江”という漫画家に注目した私が、次に「マーガレット」
誌上で目にしたのは、『エメラルドの海賊』でした。
子どもの頃から『宝島』を愛読していた私としては、“海賊もの”というだけで、感動せずには
いられません。少女まんがで、海賊がメインというと、丘けいこの『カリブの女海賊』以来では
ないかと思うくらい、数が少ないのです。(これ以降も、寡聞にして思い当たらないのですが。)
コスチューム・プレイにふさわしい華やかな画風。フィリップをはじめ、数々の美形で個性的な
登場人物達。そして、ただの海賊ではなく何やら秘密がありそうで、先のよめないストーリー。
連載第1回目のラスト、ヒロインが「死ねい、海賊!」と叫んで繰り出したナイフを払い落とされ
る所まで読んだ私の期待は、いやがうえにもふくらみました。
これこそ、私が望んでいたマンガに違いない!
それなのに、なんと言う不幸。
新連載をたった1回分読んだだけで、私は次号を買うどころか、立ち読みさえも出来なくなって
しまいました。
父の海外転勤について、我家は東南アジアの某国にひっこしたのでした。
学校をかわったり、友達と別れるのよりも、「マーガレット」が読めなくなるのが悲しかった。
オスカルの運命は?(マリー・アントワネットの運命は分かっていました。)
ひろみと藤堂さんは?(宗像コーチがあんなことになるなんて、当時はまだ想像の外でした。)
そして、私の前に華々しく登場したばかりの“うるわしのフィリップとやら”は、どんな活躍を?
しかし、天は我を見捨て賜わず。
日本から「マーガレット」を、まとめて送ってもらっている人がいて、何週間か遅れのそれを
借りて読む事ができました。
こうして、異国の地で読んだ『エメラルドの海賊』。さらに『あーら!わが殿』、『銀河荘なの!』
と続く一連の作品に出会うに及んで、「やっぱり、私の望んでいたマンガだった」との思いを強く
したのでした。
さて、『エメラルドの海賊』ですが、これはもしかして『アンジェリク』から、おもしろそうな
材料をピックアップしてDOZI様流にお料理し直したものではないかと、この頃思います。
黒髪の海賊、宿命の兄弟、お姫様なのに髪を切って身をやつす事もいとわない行動的な金髪の
ヒロイン、そしてフィリップ。
共通する要素が多いと思いませんか。
また、この作品から、“ヒロインを取り巻くとりどりの美形達”という図式よりも、“フィリッ
プと黒髪美青年との葛藤”に、ストーリーの重点が置かれることが多くなったように思います。
少女マンガ界全体を見ても、萩尾望都、竹宮恵子といったいわゆる24年組の活躍が注目され始め、
従来の“ボーイ・ミーツ・ガール”をテーマとした恋愛ストーリー一辺倒から脱却して、少年愛
という新しいテーマが、その位置を確立しようとしていた時代でした。
『ポーの一族』は既に発表され、3年後には『風と木の詩』、『イブの息子たち』が登場すると
いうこの時期、DOZI様もまた『摩利と新吾』への道を確実に歩んでいたと言えましょう。
作品中、印象に残る場面、科白は数あれど、『エメラルドの海賊』で、私が一番に思い出すフレ
ーズは、「ディディ ボンボン! ディディ ボンボン!」なのです。ちょっと他では聞いた事の
ないリフレーンなので、妙に耳についてしまって。
どんなメロディーかは、分からないのですけれども。
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リアルタイムで作品を追えた経験は、過去のこととして語る時には思わず自慢してしまいたいくらい
恵まれたことですが、その時は自分の生活の中のドラマをも折り込んで、
まぎれもない真剣勝負です。
(今日、現役の皆様、それぞれの持ち場でがんばって下さいね!)
「マーガレットと隔絶した世界に行かなければならない」などと、もし私が同じ立場だったらと
思えば、当時の水玉さまの心境がどれだけ深刻だったか推測するに難くありません。
今でも海外で日本の雑誌を入手するのは手間もお金もかかりますが、1970年代に、しかも、
中高生の立場では、もう不可能の文字が重くのしかかるばかりだったのではないでしょうか。
『エメラルドの海賊』の連載は1973年(昭和48年)21号のマーガレットから
始まっています。
ついでに見ておきますと、『つる姫じゃ〜っ!』が絶好調、『エースをねらえ!』は、
お蝶夫人とひろみが、初めてペアを組んだ関東大会のダブルス一回戦の第3セットが、
「負けることをこわがるのはおよしなさい。たとえ負けてもわたくしはあなたに責任を
おしつけたりはしない」というお蝶夫人のお言葉とともに始まって、
『ベルサイユのばら』はオスカルが婚約者を選ぶためのパーティーをぶっ壊し、かたや
アンドレは純愛小説「ヌーベル・エロイーズ」を読んで思いつめた挙げ句、ワインに毒を入れ、
読み物としては「郷ひろみ物語」が連載21回目、そんな頃です。
ちなみに、この時のマーガレットは定価が90円、翌週22号からは西谷祥子先生の
『水の子』がスタートしました。
『エメラルドの海賊』と『アンジェリク』の相関関係のご指摘にはなるほどです。
ぱふ1980年7月号のインタビューで、「漫画家になって間もない頃に『アンジェリク』の
初版を読んだ」という趣旨のことをおっしゃっています。(他のところでも、
DOZIさまは同様のことをお書きになっていたと思いますが、とっさに思いついたのが
このインタビューだったので)
とにかく、DOZIさまにとってゴロンの『アンジェリク』は非常にインパクトのあった作品で、いつかは
作品化したいと、最初に読んだ時から思っていらしたそうですから、意識なさったかどうかは、
さて置いて、『エメラルドの海賊』にも思い入れが反映していても不思議はないでしょう。
さあて、「ディディ ボンボン! ディディ ボンボン!」
これは、私がそのうち一本原稿を書こうと思いながら事実関係の確認をサボっていたネタなのですが、
ここでご披露いたしましょう。
「ディディ ボンボン!」の出典は、イギリスのロックグループ T.REX です。
ティー・レックス、その前はティラノザウルス・レックスを名乗っていました。どちらの時代の
ものか未確認なのですが、そのライブのLPの中で、ヴォーカルのマーク・ボランが
延々20数回「ディディ ボンボン!」を繰り返し、途中で本人が飽きてきて
12回目だったか、13回目だったからアクセントを付けたり調子を変えたりして、
それでもめげずにリピートしていたフレーズだとか。
ロウィーナがとっさに口づさんだ場面(マーガレットコミック 前編 P93)の他に、
マーク・ボランをモデルとしているコンスエラが、特にストーリー上は
歌っている必要はなくても「ディディ ボンボン!」と楽しげな様子を見せるのは(同 後編 P44)、
そんな事情ではないでしょうか。
肝心のメロディーですが、友達が歌っていたのをかろうじて思い出すと、ミ・レ・ド・ド!
ミ・レ・ド・ド!くらいだったでしょうか。そして、アクセントを付けはじめると、ミ・レ・ミ・ミ!
と変わっていたような…気がします。けど、なんとも、心もとないところです。
機会を見て確認いたします、と宿題にして頂いて、今回はここまででご容赦くださいませ。
(1999.9.2 up)
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