―― あの日も凍(い)てつく雨が降っていた。
自らリョウこと流竜馬を迎えに行った早春を思い出す。
―― そして、リョウに隼人を迎えに行かせた日の雨も冷たかった。
早乙女は“迎えに行った”と記憶している。しかし、その現場を目撃した者は十人が十人とも彼らの所業を“拉致”と表現するだろう。
今、運転席でハンドルを握るのは二番目に拉致された男、神隼人だ。
ゲッター線の発見者でありゲッター計画を双肩にになう早乙女は、常に命を狙われている。プロの護衛が政府から派遣されているが、オフィシャルな護衛は人目を引き過ぎるきらいがある。
隼人が早乙女研究所に来てからは、早乙女の外出時は彼がハンドルを握ることが多くなった。なにしろあらゆる危機に対して並外れた実戦対応型、いや、より正確には攻撃型の対処方法を身につけている。彼の護衛は―― 質的には異なるとしても ――プロのそれにも引けを取らない。その上、運転技術は文句をつける余地をなく完璧だ。
霧雨がじわじわ乗ってくるフロントガラスを間歇のワイパーがぬぐう。大きくカーブを曲がると研究所のドームが見えてくる。浅間山の山頂を隠す雲か霧か、風に流れてたなびいている。天候は回復傾向にあるらしい。空が少し明るくなってきた。
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